奨学金返済の3つの救済措置。「マイナンバーによる所得連動返還型奨学金制度」

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増える奨学金の滞納

日本学生支援機構の奨学金(以下奨学金)の滞納が問題になっています。

滞納が増えている背景には以下のような理由があります。

  • 返還者の低収入(ワーキングプア)、失業率の高さ
  • 返せるのに返さないモラルの低い人の増加
  • 日本学生支援機構の返還猶予制度が周知徹底されていない


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奨学金を受けた人の多くが返済しなくてはいけないと思っていても、経済的な事情により困難になっている現状があります。

中には、奨学金の返済のために、貸金業業者から借入れをおこない、それが積もり積もって多重債務となり、債務整理を余儀なくされるケースもあちこちから聞こえてきます。

日本学生支援機構によると、平成21年度に延滞したのは約34万人で、合計797億円が未返還でした。これは同年に返還されるべきだった3983億円の20%以上の金額です。

【参考】奨学金の返還促進-JASSO
http://www.jasso.go.jp/henkan/sokushin.html

システムが破綻?

奨学金は、現在借りている学生たちがきちんと返済したお金を、次の世代の学生へ向けて奨学金を貸すという仕組みで成り立っています。

このように滞納者や未納者が増え続けると、日本学生支援機構の奨学金のシステムそのものが破たんしてしまう可能性もあります。

勉学したいという学生のための奨学金というシステムを守るためにも、返還中の世代の生活を守るためにも、救済措置が必要になってきています。

奨学金の返還を支える3つの救済措置

借りたお金は返さなければいけません。それが原則ですよね。

しかし、返済したくても“無い袖は振れない”場合にはどうすれば良いか?奨学金の返還を助ける3つの救済措置があります。

  1. 減額返還制度
  2. 期間を延ばす代わりに、毎月の返済額を減らす制度です。返還の総額(利息含めて)は変わりません。

    一定期間1回当たりの当初割賦金を2分の1に減額して、減額返還適用期間に応じた分の返還期間を延長します。毎月の返還額を減額するため、無理なく返還を続けることができます。

    適用期間は12ヶ月(6ヶ月分の割賦金を12ヶ月で返還)で最長10年(120ヶ月)まで延長可能です。

    減額返還制度-JASSO
    http://www.jasso.go.jp/henkan/gengakuhenkan.html

  3. 返還期限猶予制度
  4. 在学猶予と一般猶予に分かれています。在学猶予は在学中に、一般猶予は経済的な理由などで、それぞれ返還を待ってもらえる制度です。総額は変わりません。

    在学中、または災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合に願い出できる制度です。
    一定期間返還を停止し先送りにする事により、その後の返還がしやすくなります。

    適用期間は通算10年(120ヶ月)が限度です。(平成26年4月より適用期間が通算5年から通算10年に延長されました。)
     (ただし災害、傷病、生活保護受給中、産休・育休中、一部の大学校在学、海外派遣の場合は10年の制限がありません。)
    ※返還すべき元金や利息が免除されるものではありません。

    返還が困難な方へ ~減額返還・返還期限猶予のご案内~-JASSO
    http://www.jasso.go.jp/henkan/konnan.html

  5. 所得連動返還無利子奨学金
  6. 2012年から日本学生支援機構が導入している奨学金です。所得の低い期間は猶予され、一定の所得に達している間のみ返還するというプランが特徴です。

家計状況の厳しい世帯の学生・生徒を対象として、無利子奨学金(第一種奨学金)の貸与を受けた本人が、卒業後に一定の収入を得るまでの間は願い出により返還期限を猶予することで、将来の返還の不安を軽減し、安心して修学できるようにすることを目的とした制度です

Q8.「所得連動返還型無利子奨学金」制度において返還期限が猶予される「一定額」とはどれくらいですか?
【A】給与所得のみの場合:年収300万円以下、給与所得以外の場合:年間所得200万円以下です。

所得連動返還型無利子奨学金制度-JASSO
http://www.jasso.go.jp/saiyou/syotokurendo.html#taisyousya

新しい救済措置:マイナンバーを活用した所得連動型返還

現在、日本学生支援機構が行っている所得連動返還無利子奨学金にとって代わる制度になります。

文部科学省で新たに導入が検討されおり、2016年から始まる「マイナンバー制度」と紐付されるものになる予定です。

所得連動型返還には、所得が低い期間は返還の負担から逃れられるというというメリットがあります。マイナンバー制度を活用することによって個人の所得や税金の状況を正確に把握することができるのも良い点です。

一方で、猶予期間が長くなると、返還の意思があるのかわかりにくいのはデメリットです。中には「一定の所得を超えなければ返還しなくていい」と返還を踏み倒すためにあえて低所得の生活を選ぶ人もいるかもしれません。

返還期間の設定(返還義務をいつまで負わせるか)も議論の対象になっています。返還義務を一生負わせるのは、回収にかかる費用から見ても現実的ではありません。

ですが、どこかで返還義務をなくす(つまり残金をチャラにする)制度が採用されれば、返還率が下がる可能性もあります。

様々な問題点について文部科学省では議論が続けられています。

【参考】資料2 柔軟な「所得連動返還型奨学金制度」の主な論点について:文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/057/attach/1345933.htm

まとめ

学生にとって最良の方法は、奨学金を「貸与」ではなく返還義務のない「給付」の形にすることです。ですが、財源は無限ではありません。

限られた財源の中でより多くの学生に奨学金を提供するためには、返還率を上げることが欠かせません。

所得連動型返還は確かに一見返還者の負担が軽くなるようにも見えますが、返す見込みが無いにもかかわらず安易に奨学金を借りる人の増加にもつながる可能性があります。

所得連動型返還とマイナンバー制度が本当に返還率の上昇につながるかはまだまだ議論の余地がありそうです。滞納者の増加の根底には、「安易に借りてしまう学生」と「たやすく貸す機構」の問題点もあるのではないでしょうか。

日本学生支援機構の奨学金は借金です。借金は作らないに越したことはありません。

奨学金を借りようと思っている方は、今一度本当に必要か考えてみましょう。

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